vol.052戦う場所
Designed to Fight
9月某日、有明ヘッドクォーター(有明HQ)への移転が完了しました。
特に今回の移転は、建設会社からドーム入りした左瀧部長が能力・経験をフルに発揮されたこともあって、僕個人的には何ら大変なことはありませんでした。
そんな意味から、肩の力が抜けていたオフィス移転でしたが、ご来社いただいた方々の反響も大きく、また思ったよりもユニークな空間が出来あがったこともあって、自然と気分が高揚していることに気づきました。そこで、今回のコラムはこのオフィス移転について背景や狙いなどを書き、ドームのちょっとした舞台裏をご紹介したいと思います。
ー背景ー
丸の内のエリートサラリーマンを脱落した僕ですので、日本のビジネス作法をそのまま絵に描いたようなオフィスビルには、もともとちょっとしたアレルギーがありました。同時に、羽田で造船所を営む家系に育ったもので、海沿いが好きだったり、ドックっぽい倉庫の無骨な雰囲気に親しみを感じたりもしていました。
社員数の増加に伴い、オフィスの拡張か移転かの選択を迫られました。やはり無機質なオフィスをただ拡張していくのは"ドームっぽく"ない。「よし、本当のホームタウンと呼べる場所を探そう!」となり、本格的な「物件探し」が始まりました... とはいうものの、ここでも僕は何をした訳ではなく、ドーム総務担当・森広チームリーダーが一生懸命探したのですが。
で、結果的には「自由に改造できる倉庫物件は有明しかありません」ということと「まあ海も近いしなぁ」ということ... などから有明になんとなく決めてしまいました。正直、実際に引っ越しするまで「本当に引っ越すのかなあ」などと他人事のようにさえ感じていました。
ー思考ー
さはさりながら「倉庫をどんなオフィスにしたいのか?」というコンセプトを考える必要がありました... これは僕の仕事です。世界中にある最新且つイケてると言われているオフィスのサンプルをたくさんチェックしましたが、ピンとくるもの、グッとくるものは、まるでありませんでした。ただ洒落ていて、だらだらする場所、遊ぶ場所がたくさんあるような... そんなトレンドを感じ、違和感さえ覚えました。
そこで改めて仕事の定義を考えました。もちろん、仕事には色々な要素がありますが、僕の中では「仕事は戦いである」ということに収斂されました。世界の金融を牛耳っているウォールストリートも、米中でバチバチやっている外交も、すべては覇権争いの真っ只中で戦っています。日本人のポテンシャルを再考させられるほどの大活躍を見せたラグビーの日本代表選手などのアスリートも全く同じです。まず、その「戦い」という現実を直視するところから始めました。その結果「基地」というイメージが湧いてきました。
学生時代のスポーツ経験から、最も強い組織として軍隊の運営に興味を持っていました。これは小さなころの愛読書が「三国志」であったことも影響していると思います。戦争の目的は様々あるでしょうが、軍隊の目的は明確です。それは「負けないこと」です。そのため、あらゆる機能を研ぎ澄まし、無駄がなく、構成するすべての要素に具体的な意味があります。基地に関しては機材やレイアウト含めて、すべてが勝利に直結するという機能的なものであることはいうまでもありません。
そこで、大きなコンセプトを「Combat & Resort(コンバット&リゾート)」としました。
学生時代、史上最強と言われている米軍に関する本を読んだ時、米軍がいかに兵隊を大事にし、彼らが100%の力を発揮できる環境作りに資源を割いているか... という記述に衝撃を受けたこともあり、戦うには静養が不可欠と考え「リゾート」を加えました。
そしてこのコンセプトを設計会社である株式会社プランテック総合計画事務所さんにお話ししたところ、驚くほど素晴らしい提案が届きました。もともと、ドームは自前主義を標榜し、TVCMや店舗設計などを含めて自社で内製する文化のある会社です。他社の提案で満足いくことが少なかった...というのがその理由の大きな物でありましたが、そんな意味では期待値が60点とすると120点の大変素晴らしい提案でした。
それほどまでに、僕のこの変てこなコンセプトを十分に理解していただき、世界のケースを組み合わせて、想像を超えるほどの提案を持ってきてくれました。(図1)
このように徹底的に戦うことを意識し、研究し、有明HQの大きな方向性が固まりました。
ー戦うオフィスとその理由ー
そもそもなぜ僕がここまで戦うことにこだわっているのか、それは、こちらをご覧ください。(表1-3)
このように、日本はGDPこそ世界第3位を維持していますが、一人当たりGDPは27位、ここから読み取るべきは日本の高いGDPの理由は1億3千万人という「人口」に起因しているということです。その実態を示しているのが労働生産性のスコアです。先進国7か国中、19年連続で最下位を爆進中です。これは日本人は効率的に働くことができず、付加価値の高い商品やサービスを作ることができないことを意味しています。
日本のサラリーマンや公務員の誰もが感じるであろう「なんでこんなクダラナイことやらなきゃならないんだ!?」みたいなことは「本当にあってはならない」ことなのです。そして日本を「技術立国」や「モノ作り大国」と思うことも幻想である、ということも理解すべきでしょう。データから見ると「ダラダラ長時間働いている人がたくさんいる国」ということになります。もちろん、部分的に見たら先進的な領域もあるかと思いますが、足を引っ張るような古いビジネス習慣から抜けきれず、一向に効率化が進まないのが現実だと思います。
ドームは過去5年の平均成長率は30%を超えています。それは表現は様々あれど、本質や合理性を追求し、無駄や非効率な作法を徹底的に排除しているからに他なりません。それでもなお、満足に程遠いのはアメリカのUnder Armour社の成長がはるか上をいくものだからです。自分の身長が低いか高いかは、他人と比べてみて初めて分かることです。このように、日本という国の、自分の会社の立ち位置をデータから客観視することで、井の中の蛙から脱却し、自らがどのような心構えで行動せねばならないか、そんな方向性が見えてくるのだと思います。
つまり、今の日本は「ゆとりかましている場合」でも「日本は素晴らしい国だ」など悦に入っている場合でもない、ということ。「平和」や「安心・安全」を求めるのはいいけれど、これらは全て「お金」がかかるモノ、「クレクレ」と甘っちょろいことを言う前に、自らが必死に効率よく働くべきだということです。格差をヒステリックに拒絶する前に、配分する原資が枯渇している現実を直視すべきでしょう。成長する企業、意欲の高い人間をどんどん能率的に働かせて、配分原資を産み出さないことには、これからさらに厳しさを増す少子高齢化社会に対処することはできません。
すなわち「一生懸命働くこと」 、日本全体がこの原点に立ちかえらねばならないという訳です。
そうです、今も昔も、我々日本人の最大の褒め言葉は「あの人は本当に働き者だねぇ」だったはずです。そして日本人は世界から見て「働く民族の象徴」でした。「24時間戦えますか?」というフレーズは僕ら世代なら記憶に鮮明に残っていることでしょう。
このCMが大きな話題となっていた89年の世界の時価総額ランキング(表4)をみるとすごいことになっています。24時間戦うことで得られる対価は決して少なくないはずです。
ー有明HQ Chapter2ー
さて、やや恣意的な要素から設立されてしまった有明HQ、そして「Combat & Resort」というコンセプトなのですが、そのコンセプトをより完成へと近づけるのが来年早々に着工される二期工事のテーマ「Proactive Matrix(プロアクティブマトリックス)」です。現在のオフィスの2.5倍(約15,000平米)のスペースとなり、広い空間をより「プロアクティブ」に活用します。
「仕事」は過去も未来もあらゆる要素が複雑怪奇に絡み合う大変厄介なシロモノです。そんな複雑さを研ぎ澄ましてシンプルにしていくことが生産性を高めるカギとなります。そのため、組織は変更を繰り返し、会議をし、飲みニケーションをし... 電話、ファックス、メール、掲示板、付箋などなど様々な機能が開発されてきました。これら全ての目的は「コミュニケーション」です。
あらゆる組織は工夫を重ねて効率的なコミュニケーションを図ろうとしますが、ここには「縦組織のくびき」が大きく立ちはだかります。すなわち、フラットなコミュニケーションが必要であるにも関わらず、組織内の帰属意識や、組織間での権力抗争などにより、「縦組織運営」に堕落させられてしまうという構造問題が立ちはだかる訳です。競争原理が資本主義の原則ですから、ある意味仕方のないこととも言えますが、放って置くことかどうかがポイントになります。
我々は現在、縦の組織をベースに、プロジェクト単位で横串を通す、マトリックス状の組織運営を行っています。そのプロジェクト単位に、物理的なスペース... 専門性を高めた部屋であったり場所であったり... を配置することで「縦組織のくびき」からの脱却を目指します。それが「Proactive Matrix」の具体的な形です。二期工事が終了したら、是非ともお越しいただけたらと思います。
ー転じて、IT環境ー
これらコンセプトを実現せしめる上で、忘れてはならないのがIT環境です。ドームはもはやIT企業と名乗ってもおかしくないと言えるほど、充実したIT環境を装備しています。基幹システムにはSAP社のERP、日常のコミュニケーションや議事録の管理、顧客サービスの拡充にはSalesforceを、そして一般業務にはMicrosoftのOffice365... などなどを導入、SAP、Salesforce、Microsoft、各社それぞれとは高いレベルのパートナーシップを組み、常に最新バージョンのソリューションが導入されています。
スタッフにはMicrosoftのSurfaceを順次導入、機動性と柔軟性を高め、同時にBYODによるスマートフォンの各自導入を推進、全てはクラウド上での連携が行われていることで、組織と機能間の有機的な連携と、場所を選ばない労働環境を実現しています。このように、ドームでは「24/7、365」という24時間営業、年中無休状態ができあがっています。
24時間、365日営業は一見過酷に思えるかもしれませんが、実はまったく正反対のコンセプトで、いつでもどこでも自分の一番いい場所で、いいタイミングで、いいコンディションで仕事ができる、という柔軟性を確保し、心地よく業務の効率化を図る、というのが実際のところです。知っておくべき知識、情報は無限にありますが、人間のパフォーマンスには制約があります。例えば「読む」という行為は情報収集作業で場所や時間を選びませんが、「書く」は比較的、慎重さが必要な作業と言え、机の上でやりたいモノです。「読む」は軽くスマホで、「書く」はがっちりデスクで、という具合です。このように現代のIT化の流れは、個人と組織の作業としてどのように生産性を高めるか、ということに焦点が向かっていて、すなわちそれは場所や地域を選ぶものではありません。スマホを人間が持ち歩く以上、情報も仕事内容も国境も... すべての壁がなくなっていくこと、IT革命がすでに「ライフスタイル革命」にまで進化していることを認識すべきだと思います。
そんな意味では、データには国家の概念もないため、通関も入国審査もありません。ですのでドームでは、アメリカや他国、あるいは他のシステムとの機能連携、データ統合なども視野に入れた巨大なITプロジェクトがいくつも持ち構えている状況です。(合計すると数百億円!?) アメリカの進化は大変ダイナミックです。我々も「ドームが日本の労働生産性を向上させる!」そのくらいの意気込みで、ひるむことなく果敢にITによる業務改善を推進していきます。
ーまとめー
以上、新しい「有明HQ」のコンセプトにつき、基地をモチーフにしてしまいましたが、僕は右翼でも戦争を賛美する者でもありません。軍隊的なモノを引き合いに出すことで不快感を覚える方がいたら申し訳なく思います。ただ、安直な平和主義を振りかざすことで、世界で推し進められている軍民転換の実態を見逃してはなりません。インターネットなどがまさに軍事産業の民生化の最大の産物です。
学べることを謙虚に学び、社会と文明の進化に寄与することが、成熟国家に到達している日本の向かうべき方向性だと僕は信じています。
僕は右翼ではありませんが、日本が大好きです。世界の中で、誇れる国でありたいと思います。
反対に成長・拡大を続けるアメリカを忌み嫌う人々もいるでしょう。僕はアメリカも大好きです。
僕の大好きな映画に、
『タイタンズを忘れない』や『42』というのがあります。これら映画は、スポーツが人種差別の壁をぶち破っていく... という僕らスポーツ人にとって、これほどの勇気をもらえる映画はない! と断言できるような素晴らしい映画です。
人間は清濁併せ持つ生き物ですが、こうした映画をみると、文明の進化は必ずや正しい方向に向かうと感じられます。
これらの映画を見ても、歴史を学んでも、アメリカ人も、アメリカの中で厳しい戦いを経て、人間の尊厳を叩いては分厚くし、人種差別というおぞましい歴史を変え、オバマ大統領を誕生させたのです。変えていく、進化していくことは本当に力強く尊いものです。
ダーウィンは自分の研究を「変化するものだけが生き残る」と結論づけました。
戦後、もう70年です。
日本も、世界の中で変われるはずです。
僕は、日本は、世界をよりよくするために戦える国であると思うのです。
過去の遺産を食い潰し
変化を恐れて、閉じこもり
部屋の中で老い朽ちていく...
そんな日本は見たくもありません。
隗より始めよ。
ということで、我々もアメリカのように、「スポーツが日本を豊かにする」を実証するべく、有明HQをベースに、恐れず、ひるまず、勇気を持って精一杯戦って参ります。
日本が、子供の時代、孫の時代にも、素晴らしい国でありますように。
*1. 出典:IMF
*2. 2013 年/34 カ国比較・主要先進7カ国:日本・アメリカ合衆国・英国・フランス・ドイツ・イタリア・カナダの 7 カ国・出典: 日本生産性本部・労働生産性=GDP/ 労働者数
*3. 出典:日経ビジネス1989年5月8日号/モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル・パースペクティブ
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※本コラムは、「Dome Journal vol.33」に掲載されたものです。
https://www.domecorp.com/journal/